1999年9月お薦め書籍

ハコミセラピー
book
発行日
1996年2月12日
著者
mr.Ron
ロン・クルツ

訳者
mr.Takao
高尾 威廣
(たかお たけひろ)、
mr.Oka
岡 健治
(おか けんじ)、
mr.Takano
高野 雅司
(たかの まさじ)
発行所
株式会社 星和書店
定価
3,800円+税
(1999年9月1日現在)
【書 評】

 凡そ心理療法と名の付くものの大半は、西洋の技法に依るものが多い。日本独自のものとしては、森田療法や吉本式内観療法があり、その他2〜3見るべきものがある。それぞれかなりの効果実績を挙げており、その点ではこれらの手法は、日本の独自性をよく顕わしている。

 しかし、一軒の家を建てるのに様々な道具類が必要なように、これらの手法だけでは、しばしば臨床現場では手詰まりになることが多い。

 今回取り挙げた「ハコミセラピー」は、現在、アメリカで最新の技法とされ、他の流派を経たセラピスト達もこぞって、その習得に努めているものだが、この図書は「ハコミセラピー」を大系づけた最初の書である。技法というものは書籍だけで学べるものではないことは多くの方々の了解するところではあるが、初心の方は兎に角として、20年前後心理臨床に携わっておられる方々にとっては、読むだけで多くの学びがあるはずであり、願わくば実地に触れられんことを希って、この書をお勧めする。

 表紙に、<「こころとからだの相関性」を重視するハコミの最大の特徴は、そのワークの「繊細さ」である。>と記されている。筆者が直接逢って識る限りのセラピストとしては、「格別の繊細さ」を持っている。というのが著者のロン・クルツの個人ワークを直接鑑(み)た筆者の感想である。むしろ繊細過ぎて、ロン・クルツ自身、アメリカという外向的な社会では生きにくかったのではないか想われる程である。

 筆者がこの著者ロン・クルツに逢い、直接、個人ワークを鑑た実感としては、この繊細さもさることながら、本文中に書かれている「ハコミセラピー」の特徴の一つでもある「ノンバイオレンス」について一寸述べてみたい。

 過去25年間に亘って、ヨーロッパ諸国を始めとして、アメリカや日本の多くのセラピスト達の個人ワークを間近に鑑てきた筆者にとって、未だに苦々しく思っていることは、サイコセラピストの「共依存性」についてである。その殆どが「大切にされたいことへの渇望」に由来する「自覚の無いさびしさ」に依ると思われるが、中には殆ど「患者依存症」とでも呼べるような偉大なサイコセラピスト達にも数多く出会っている。

 つまり、「あなたの為」と称しながら、実は「自分が必要とされる為」の行為が多く見られ、殆ど「見えない虐待」とでも呼びたい程のことが多い。

 ここで言っている「ノンバイオレンス」は「非暴力性」をも言っているが、筆者は、これを「非侵入性」と呼びたい。

 多くのクライエントの共通のテーマは「自我の弱さ」である。「自我の強さとは、自分の内面には味方がいるという実感の強さに正比例」するが、本来、味方であるはずの両親を始めとする兄弟姉妹が自我境界線を超えてくる侵入者であり、その点に於いて、本来、味方であるはずの人達が、自分の内面で味方足り得ないことである。その結果、ワラをもつかむ思いでやっと巡り逢った味方であるはずのセラピストに侵入されたのでは、全くのところ、クライエントは立つ瀬が無い。

 今まで、ここのところをはっきりと言語化して顕わしている心理書籍に、筆者は寡聞にして出合っていない。その点、「ノンバイオレンス」と明確にうたい、ハコミセラピーにとって重要な特徴としていることは流石に最新のものであり、この書をお勧めする所以でもある。

 この「ノンバイオレンス」は結局のところ、ウィニコットの言う「二人でいるにも拘わらず一人でいられる能力」を育むための設定であり、神田橋條治氏と荒木冨士夫氏との共著による名論文「自閉の利用」や、筆者の「とじる」で提示していることと同じと言ってよい。

 この設定なくしてサイコセラピーを行使することは、暴力性を伴い、他者侵入性を否定することは不可能である。この一点のみに限定しても、世に臨床心理士を標榜される方々に対して必読の書として強くお勧めする。

(文責:飛鳥井 雅之

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