精神免疫学の世界
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| 発行日 |
| １９９９年５月２０日 |
| 著者 |
| 神庭 重信 （かんば しげのぶ） |
| 発行所 |
| 株式会社 文藝春秋 （文春新書 041） |
| 定価 |
| ６９０円＋税 （2001年３月１日現在） |
厚さ１cm足らずの新書版の本の中に、これほどの情報量が積載されている本は、筆者としては初めて出会った様に思う。しかも、精神身体免疫医学と云う、西洋医学でも最先端の分野に於いてである。
この本の著者は、学問を本格的に、しかも正統にやってきている事が随処に見受けられる。その一つとして、「本書で取り上げた免疫学の内容については、医学部の同級生で、慶応義塾大学医学部教授の河上裕君に、一般身体疾患については山梨医科大学の各講座の専門家の方々に、目を通して頂いた。」と述べられている。
この態度は、正当な学者がよく用いるやり方であり、この本の著者の謙虚さを、よく象徴している様に思う。たかが２３０頁ほどの新書版だが、その内容は驚くべきものがある。確かに、一人で全てに自信が有って書き得る内容ではないかも知れないと、思わざるを得ないほどに中身が濃い。
少しでも、専門が外れている事に関しては、専門家の校閲を仰ぐと云うことは、簡単に出来そうで中々に難しいものなのである。しかし、この態度だけを取り上げても、この本が如何に真摯な態度で書かれているかが、分かるというものである。
この本をお薦めするに際して、唯一躊躇した点が一つだけ有った。それは医学の専門用語に関してであった。医学に関しての素人の方が読み進める際に、分かりづらい用語が、多分、多くあると思われる事である。しかし、それを差し引いてもなお余りある内容であって、この本を読まない事は、各人の心身の健康にとって、大きな損失になるとまで筆者としては考えられる程の本である。
多分、最初は、初めて出会う医学用語に多少の戸惑いを覚えるものと思うが、読み進むうちに、その言わんとするところは、自ら伝わってくるはずであると思う。
この本の著者は、アメリカの名門であるメイヨ･クリニックで精神薬理学の研究に従事。同アシスタント・プロフェッサーをしていたほどの秀才である。加えて１９８５年には、米国精神医学会最優秀レジデント研究論文賞をも受賞している。
筆者の知る限りでは、最近の西洋医学者の中では群を抜いている方だと思う。それは、単にキャリアだけでは無く、その内容にも特徴的に現れている。
その一つは、鳥瞰としての医学史から、細部としての免疫機構まで。或いは、西洋の医学事情から日本の心身医学に至るまで。果ては、Ａ型、Ｂ型、Ｃ型性格と、それぞれの引き起こし易い病気の検証。抑うつと癌との関係性の検証。等々、その他、「こころの働きは、遺伝か環境か」、「こころとからだはこうして対話する」という事など、今、我々が知りたい情報の殆どが網羅されている。
その他、「情動と病気の関係」や「癌の発症、治療とこころの問題」等にも触れられている。中でも圧巻は、「対象喪失反応による抑うつと癌との関係性についてである」現代医学に於いてすら、一般内科の領域では、情動と症状との関係を認めたがらない、あたかも自動車の整備士の様な医者が多いが、この本では、ヒポクラテスの弟子であるガレヌスにして、「メランコリーの女性は、健康な女性に比べて、乳房に腫瘍ができやすい」という事を引用している。
日本の心身医学の創設者でも有る池見酉次郎先生の著書では当然の事が、一般内科では中々に通用しない日本の立ち遅れた医学界では有るが、こう云ったマトモなセンスを持った方の本に出会うとホッとするのは著者だけなのだろうか。
筆者としては、かつて、池見酉次郎先生の招聘によって来日され、日本に初めて「バイオエナジェティックス」を導入したジョン・ガヤシ先生を思い出す。と云うのは、ジョン･ガヤシ先生は、筆者にとっては、バイオエナジェティックスの恩師でもあるが、離日の際、「日本の医者は、馬鹿ばっかリだ。二度と日本には来ない」と言い残してカナダの本国に帰られた。
事実、ガヤシ先生は、カナダの名門大学のモントリオール大学を首席で卒業した程の秀才であったから、と云うことも有ったかも知れないが、何といっても、その当時の医者の頭の硬さには呆れた可能性は充分に有り得る。しかし、あれから２５年を経た今、これほどの素晴らしい医者も出て来ていると言う事をガヤシ先生に知らせたい思いに駆られるのも事実である。
と云うことで、医療従事者の方をはじめとして、自分自身の健康管理に関心が有り、尚且つ、正当な情報を求めている方々に、正面から真っ直ぐにお薦めする次第である。
